ながらふもの、かく語れり

【起】
その昔、海の向こうに、竜の支える国があった。
竜の魂(こん)は、国の人々と分かつもの、
竜の魄(はく)は、人と土地に加護を与えるものだった。

人々は地の上に、竜は地の下に住んでいて、
人がある限り、竜は命を繋ぎ、
竜がある限り、人も生き続ける。
そのような国なので、永久にあると思われた。

【承】
しかしながら世というものは、流れる事を課してずっと続くものを許さない。
ある日、異国の赤子が、突然割れた地の中に落ちる。
それは世がかの国に穿ったもので、竜のもとへ通じていた。

赤子は竜の加護に与り、その懐で光を知らずに育つ。
闇が滞るばかりの穴の中で、どうして互いの姿が見えるだろうか。
(いや、見えない。)
そうであっても、いや、むしろ見えないから、
触れ合う事によって竜と子の絆は強くなった。

【転】
そのうちに、竜は子の光に、子は竜の空になりたいと、
それぞれ望むようになった。
そして彼等はとうとう穴から出て、外を高く飛ぶ。
しかし眼下の国は、すっかり荒廃していた。

その国において、竜と人が触れ合うのは禁忌。
国の人々の魂は、竜と分かつもの。
だから竜が心を思い出すほど、国の人々は心を忘れる。
それがもたらす不幸を恐れての戒めだった。

穴の中で子が育つにつれ、
竜の慈愛は満ち、国の人々のそれは引いて、
加えて竜の加護も子が一身に受け続けているのに、
その国が、災厄と戦乱の地に成り果てずにいられようか。
(いや、いられない。)

【結】
国の人々は、禁忌を犯した竜の背に乗る子を、無慈悲な矢で射落とす。
その瞬間、魂は全て竜に移り、国の人々は抜け殻になってしまった。

ひどく怒り悲しんだ竜は、その国を焼き滅ぼした後、
自らも燃え尽きて散り散りになった。
鱗は砂になり、翼は風になり、腹わたは川になり、最後に眼は光になって、
今も絶えず世を流れる。

唯一、心だけは、魂が結ばれる子の身で拍を繋いでいる。
子は光によって、自分の目が、空と同じ青色であると知った。

そうして、以前にあった国の事をこのように語っている。
永久を許さない世に従わず。