ながらふもの、かく語れり




昔 海の遠方(をちかた)に 竜の支ふ国ありき
魂(こん)は人と相合ひなるもの
魄(はく)は加護を与ふるもの

竜は地の下 人あるかぎり命つなぎ
人は地の上 竜あるかぎり生きめぐる
さる国なれば 永久(とは)なりとぞ

流らふを負(お)ほせて 永らふは許さじ世
異国(ことくに)の稚児を 竜のがり落とす
闇のなずむ穴 竜の懐で 稚児は光知らで生ひ立つ


見えねば竜と子触れ合ひて 絆こそ強(こは)くなりぬれ
竜は子の光に 子は竜の空になりたしと
遂に穴より出(い)でて 飛び翔(かけ)る
されど 竜と人が触れ合ふは禁(いさ)め

魂相合ひゆゑ 竜に心満つほど 人のそは干て
加護も子が一人与りゐながら その国 荒(あば)れであらむやは

心なき人が 禁めを破りたる竜の背の子を 矢をもて射落とす
刹那 魂はみな竜に移ろひて 人は虚(うつろ)となりぬ
怒(いか)り嘆きし竜 国を焼き滅ぼし
自らも燃え尽きて散りぬ


鱗(うろくづ)は砂(いさご) 羽は風 腹わたは川となり
果てに眼(まなこ)は光となりて 未だ世をこそ流るれ

その心のみ 魂(たま)合ふ子の身に拍(はく)繋ぎゐる
光にて己(おの)が目 空の青(あを)と知りし子 かく語れり

世に順(まつろ)はず――