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 人の往来が激しいタイルの道を、紙袋や布袋を腕一杯に持ったリンとレンとカイトは、重みでふらつきながらも周りにぶつからないよう注意して進む。買い物を終えて後はバスで帰るだけだが、停留所は賑わいの途切れないそのアーケード街を出たところにあり、まだまだ先まで歩いて行かなければならない。
 道が交差する開けた場所まで来ると、人だかりの外れに並ぶ据え付けベンチを見つけたリンが、そこのひとつに荷物を降ろした。
「もー疲れたよう、少し休もうよ」
「僕もー。なんか暑くなってきたよ」
 リンの隣に荷と身をどかりと降ろし、レンは脱いだニット帽で上気した顔を扇ぐ。その目の端に、商店の軒先に置かれたアイスケースが映る。
「リン、なんか冷たいもの買いに行こ!」
 袖を引っ張られて彼女もそれを見つけると、ぱっと表情を明るくした。
「カイト、荷物番お願い!」
 返事を待たず一目散に掛けていく二人は、先程までのくたびれた様子など何処へやら。その元気さから取り残されたカイトは、仕方なく荷物の置かれたベンチに腰掛ける。程なくして大はしゃぎで戻ってきた彼等の手には、訝しい黄色をした氷菓子が一本ずつ。それを得意げに見せられた彼は、彼等が尋ねてほしそうにしている事を尋ねた。
「……パイナップル味?」
「ハズレー! コーンポタージュ味!」
「これ夏に食べ損ねたからさ、こんなところで出会えてラッキー!」
 ああそう……と自分と彼等とのラッキー感覚に甚大なずれを感じながら、カイトは聞き過ごした。
 まずい、と喜んで氷菓子をガリガリ齧る二人の頭上で鳴り始める、鐘の音。アーケードのスピーカーがクリスマスコンサートの開催を報じると、真っ白のベレーとケープを付けた街の子供達が、列を作って広場へ入ってきた。人だかりが、そこの中央に設けられた簡易ステージに対して出来ていた事を知る。年齢がまちまちなその子供達の引率をしている、サンタクロースの格好をしたボランティアの一人に知った顔を見つけ、リンが声を上げる。
「ミクだ!」
 自分の名前を耳にして、声の方を向いた彼女も彼等に気付いた。驚いてすぐ笑顔で手を振り、子供達がステージ横に集まったのを確認すると、三人のところへ駆けて来た。ベンチに積まれた袋の山を見て、ミクは彼等がここに居る理由を察する。
「そっか、今夜のパーティーの」
「買い出し!」
 リンとレンが揃って手を挙げると、彼女はくすりと笑った。
「その荷物を全部三人で持って帰るのは大変そうね。このコンサートが終わるまで、二十分くらい聴いて待っていてもらえるなら、私も一緒に帰れるのだけど……」
「聴く聴く」
「待つ待つ」
 リンとレンはこくこくと頷く。視線を移した先のカイトも、いいんじゃないかな、と答えたのでミクはほっとした。
「そうだ、リンとレンも合唱に参加しない? 誰でも知ってるクリスマスの曲ばかりだし、帽子もケープも余分があるから、飛び入り歓迎だよ」
「ほんと!?」
「いいの!?」
 二人は目を輝かせ、迷いなくその誘いに乗った。
「これ持ってて!」
 カイトは有無を言わさず持たされた氷菓子二つに両手を塞がれ、三人の背を呆然と見送る。預かるのは構わなかったが、それは既に溶け始めていて、コンサートが終わるまで形を保っていそうにない。考えている内に手に垂れてきて、しょうがないので彼はそれを食べる事にした。
 こんな季節に色も味も匂いも珍妙な氷菓子を、しかも二本も同時に急いで食べながら、これでは自分が無類のアイス好きのようではないかと思う。側を通り過ぎる人の視線も相まって、氷菓子は一層冷たいものになった。


 ほのぼのとしたコンサートが終了し、その場から徐々に人が散っていく。せっかく少し温まっていた身体をまた冷やしてしまったカイトはベンチで一人、くしゃみをする。その肩に、後ろから暖かなものを羽織らせる者があった。振り向いた肩越しには、帽子だけまだサンタクロースなミクの顔。
「いつものコートも好きだけど、真冬には、もこもこコートもあったらいいんじゃないかと思って。メリークリスマス」
 そのネイビーのロングダウンが、ミクからカイトへのプレゼントだった。彼は立ち上がって着ていたコートを脱ぎ、そちらに袖を通してみた。
「ほんとは家に持って帰ってから渡すつもりだったんだけど、すごく寒そうにしてたから。待たせてごめんね」
「……いや、ありがとう」
 そこへリンとレンが駆け戻って来た。いつもと違う新しい防寒着のカイトに、二人は物珍しそうに食いつく。
「わーそれどうしたの? あったかそう!」
 レンが、ミクの手提げ鞄にくしゃくしゃに押し込まれているプレゼント用の包装紙に気付き、にやりとする。
「カイト、ほっぺた赤くなってるぜー」
「鼻も赤いねー」
「寒かったからだ。誰のせいだ」
 そのやり取りを見ながら、無事にサンタクロースの役目を終えたミクは笑って帽子を脱いだ。
「さ、帰ろ。メイコとルカが待ってる」



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