前の項へ戻る 次の項へ進む ★ Re Quest Xmas・目次 小説一覧


   Re Quest Xmas


 空気の冷え切った部屋に、どやどやとなだれ込む熱の塊達。彼等によってベッドで至福の暖に包まっていた彼は、夢ごとそれを引っ剥がされてしまった。
「カイト、起きて起きて!」
「起きろ起きろ!」
 寒気に晒され、寝間着一枚の彼は敷布の上でみるみる散じていく温もりにしがみつくように、身を縮める。
「……さむい」
「外で動けばすぐあったかくなるよ!」
 のろのろと重い瞼を上げて起き、揃いのダッフルコートとニット帽を着込んで出掛ける気満々のリンとレンに尋ねる。
「……外?」
「やだな忘れたの」
「昨日頼まれたじゃん、買い出しに行ってってさー」
 言われてもしばらく思い出せない様子で惚けていたカイトだったが、ようやく、ああ、と溜息まじりの声を漏らした。リンが扉のフックに掛けてあった白いコートを取ってきて、持ち主の寝癖頭に放って被せる。
「ほら早く行かないと!」
「クリスマスが先に行っちゃうよ!」


 二階の旧宿フロアから軋む木の階段を降りれば、一階は喫茶フロア。かつて宿付きの酒場だったその建物は、今そこに住み込む六名によって昼は喫茶、夜は酒場が営まれている。内装には外壁と同じ、色合いの均一でない古風な煉瓦が用いられていて、傘を被る幾つもの天吊り照明と、木の床がまろやかにする靴音とが、空間の温もりを演出している。
 リンとレン、そしてカイトが店の正面口から出ようとカウンター前を横切る際、そこで店番中のメイコが声を掛けた。チョコレート色のエプロンをつけて、カップを順に磨いている。
「あらカイト、昨日遅かったのに案外早く起きたのね」
「叩き起こされた」
 リンが口をとんがらせてメイコに告げる。
「今日行くこと忘れてたんだよー」
 それを背に素知らぬ顔でコートを羽織りかけたカイトが、くしゃみをひとつ。喫茶フロアは暖房が十分に効いているが、起き抜けの彼の身だけはまだ冷えていた。
「何か温かいものでも飲んでく? カイトは朝食もまだでしょ」
 メイコの勧めに、リンとレンが飛びつく。
「私ホットレモネード!」
「僕ホットジンジャ……」
 言いかけたレンを、リンがとっさに肘で小突く。はっと気づいて口篭り、注文を変える。
「ええっと……僕も、レモネード」
 メイコは彼等の様子に引っ掛かりを覚えつつもその場は流し、カイトの希望も聞くと用意を始めた。



前の項へ戻る 次の項へ進む ★ Re Quest Xmas・目次 小説一覧